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活動報告

UNIT 22018.12.20

「東アジアの中の大阪の学統とネットワーク――泊園書院と大坂画壇」 吾妻重二

1 泊園書院のアーカイブ構築に向けて

関西大学の知的ルーツの一つとなった泊園書院(はくえん・しょいん)につき、書物や記録、印章、門人などさまざまな情報のアーカイブ化を行っています。泊園書院は江戸後期から昭和前期まで栄えた漢学塾で、商業都市大阪の繁栄をバックに全国各地から門人が集まり、多くの有為な門人が育ちました。

現在「WEB泊園文庫」と「泊園印章データベース」のIIIF化を進め、解説と鮮明な画像を付して公開すべく準備中です。一万六千冊あまりにのぼるぼう大な「泊園文庫」は漢籍の宝庫であり、全国的にも有名なコレクションです。また藤澤東畡(とうがい)、南岳(なんがく)ら代々の塾主180余顆にのぼる印章は貴重な文物として芸術的にも美しい輝きを放っています。これらのデジタルアーカイブ公開により、近世・近代大阪文化のエッセンスに触れることができるでしょう。

2018年10月26日・27日には吾妻重二教授を中心に「東西学術研究と文化交渉――石濵純太郎没後50年記念国際シンポジウム」を開催しました。泊園書院関係者としてその運営に尽くした石濵は戦後、関西大学の発展に寄与し、近代的東洋学のパイオニアとして国際的にも幅広い人脈をもっていました。シンポジウムでは京都大学名誉教授の高田時雄氏、中国人民大学教授のキリル・ソローニン氏、浙江大学教授の劉進宝氏、東京外国語大学名誉教授の中見立夫氏、大阪大学名誉教授の生田美智子氏をはじめ、多くの研究者およびKU-ORCASメンバーによる発表を通して石濵の学問の意義と魅力に迫りました。その成果は、論文集として次年度刊行の予定です。

このシンポジウムの開催に合わせて10月22日から11月17日まで、図書館展示室において「石濵純太郎とその学問・人脈」展を開催するとともに、展観目録を刊行して好評を博しました。

このほか、梅田キャンパスでは「泊園古典講座」として「中国の古典を読む」「漢詩を読む」「三国志を読む」の3講座を春と秋各6回、市民向け連続講座として開いています。

もう一つ重要な作業として現在、「泊園門人データベース」の構築に向けて準備を進めているところです。門人録や成績表、月謝領収簿などの資料を入力するほか、二千名程度の氏名の明らかな門人につき伝記資料を鋭意収集しています。完成のあかつきにはこれまたWEB上で公開し、同書院のネットワークと活動の様相をわかりやすく発信します。

2020年秋には「藤澤南岳没後百年記念シンポジウム」(仮称)および展示会を開催すべく企画中です。泊園書院の黄金期を築いた南岳は大阪文化の顔として諸方面に大きな足跡を残しました。関係各所にはたらきかけ、その名声にふさわしいイベントにしたいと考えます。

 

 

2 大坂画壇アーカイブの構築プログラム

関西大学が所蔵する大坂画壇の絵画約700点をデジタルアーカイブとして公開する作業を行っています。内容は、文人画家の木村蒹葭堂、岡田米山人・半江父子、戯画作者の耳鳥齋、写生派の西山芳園・完瑛父子などの絵画です。世界の研究者や美術愛好家が、これらのまとまった大坂画壇のコレクションの情報をインターネット上で受けとることができます。絵画の全体図はもちろんのこと、細部の落款(作者のサインや印章)を拡大して、美術史研究に寄与するとともに、美術愛好家の趣味にも対応できる体制をつくります。これらのアーカイブ資料は、真贋の判定にも役立つように鮮明な画像で紹介する予定です。現在、ほとんどの絵画の写真撮影を終えており、ユーザーインターフェイスの開発とその実用化に着手しつつあります。

また、京都国立近代美術館、イギリスの大英博物館、ロンドン大学と提携して、大坂画壇の研究を進め、2021年には関西大学博物館で大坂画壇展を開催し、続いて、関西大学との提携によって、京都国立近代美術館で大規模な「大坂画壇と京・大坂の文化ネットワーク展」(仮称)を大英博物館所蔵の大坂画壇作品を借用して開催する予定です。加えて、大英博物館でも「大坂画壇と京都の絵画展」を2021年に関西大学との提携プログラムとして開催する構想が浮上しつつあります。この企画は、関西大学のブランドを強固にする目的で推進いたします。

すでに、2018年7月に、関西大学の中谷伸生教授とロンドン大学のアンドリュー・ガーストル教授を中心にして、大英博物館の矢野明子学芸員、京都国立近代美術館の平井啓修研究員、大阪商業大学の明尾圭造准教授兼商業史博物館主席学芸員、スコット・ジョンソン関西大学名誉教授を招聘して、国際シンポジウム「大坂画壇と京・大坂の文化ネットワーク」を開催しました。以上の企画を実現することで、関西大学から大阪文化の神髄を世界に向けて発信いたします。

耳鳥齋「歌舞伎役者の地獄」(18世紀)