東アジアの過去・現在・未来へ KU-ORCASキックオフシンポジウム

デジタルアーカイブが開く 東アジア文化研究の新しい地平

2018年2月17日(土)・18日(日) 関西大学千里山キャンパス 以文館4階

登壇者

山本 和明

国文学研究資料館 古典籍共同研究事業センター副センター長
1962年生。神戸大学文学部を経て、神戸大学大学院文化学研究科文化構造学専攻単位修得退学、博士(文学)。19世紀日本文学、特に加藤千蔭や山東京伝、仮名垣魯文等の研究が専門。相愛大学教授等を経て、2013年10月国文学研究資料館に着任。文部科学省の大規模学術フロンティア事業「日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築計画」(歴史的典籍NW事業)に当初から携わる。

歴史的典籍NW事業:その現状と目指すべき未来

古典籍30万点のデータベースを構築するということ

国文学研究資料館(国文研)が現在推進している通称「歴史的典籍NW(ネットワーク)事業」のゴールは、約30万点の古典籍の画像データを作成し、ウェブ上に公開することです。各図書館が個々に持つデータよりも、より有益な“束のデータ”を国文研のサイトで確認できる――我々は「横串を刺す検索」と称しています――、研究の基盤となる「新日本古典籍総合データベース」を作成・公開しています。

システムの特長としては、今後デジタルデータを取り巻く環境が変化しても、影響を受けることなくデータを公開できるよう、画像を原則TIFF形式で保管(配信はJPEG形式)していること。また、各図書館の所蔵作品に著作コントロールを行うことで、たとえタイトルが違っても一連の書物を確認できる点です。この横断的取り組みが国文研の強みでもあります。検索方法にも工夫を凝らし、従来の書誌情報に加えて画像タグ、全文テキスト、多様な詳細検索項目を用意。専門用語を知らない一般の方でも細かな絞り込みを可能としました。

ユーザーインターフェース上の特長は、複数のページを同時に読み込み、比較検討を容易にしている点です。図書館の開館時間を気にすることなく複数の資料を参照できるのは、デジタルならではのメリットと言えるでしょう。

研究基盤としてのデータベースはどうあるべきか

人文学の基礎は書物です。論文に引用するにも、その論文を検証するにも、論拠となる作品画像へ安定的にたどり着けることは、これまで怠られがちだった「論文の検証」が可能な人文学研究の構築に繋がると確信しています。国文研ではデータを研究基盤として扱うため、DOI(Digital Object Identifier)の活用により安定したデータ表示を可能としました。またクリエイティブ・コモンズ表示とIIIF(International Image Interoperability Framework)規格を一対と考え、データを必要とする人にとってより使いやすい環境となるよう努めています。

いずれ、デジタル化しない資料は廃れる時代が来るでしょう。利便性が高い機能の上で研究対象をしっかり確認できるデジタルデータを活用することが、精緻な研究に繋がっていくのではないでしょうか。今後は海外との連携も強化し、世界と繋がるデータベースにしたいと考えています。

データベースの構築を進める一方、国文研では市民参加型ワークショップや異分野との融合研究など、誰にとっても古典籍がより開かれた存在となるよう活動を展開しています。日本の歴史的典籍はKU-ORCASが研究対象とする東アジアの一部ですので、KU-ORCASとどういった協力関係を築いていけるか、今後を楽しみにしております。