東アジアの過去・現在・未来へ KU-ORCASキックオフシンポジウム

デジタルアーカイブが開く 東アジア文化研究の新しい地平

2018年2月17日(土)・18日(日) 関西大学千里山キャンパス 以文館4階

登壇者

二階堂 善弘

関西大学 文学部 教授
東洋大学文学部卒、早稲田大学大学院文学研究科博士課程退学。
学位は博士(文学)東洋大学・博士(文化交渉学)関西大学。
専門はアジアの民間信仰や道教の信仰。
著書は『元帥神研究』(斉魯書社)・『論集:中国学と情報化』(好文出版)など多数、翻訳書に『全訳封神演義』1~4(勉誠出版)あり。サイトはhttp://www2.itc.kansai-u.ac.jp/~nikaido/

漢字文献情報処理研究会と研究者コミュニティ

デジタル化の流れを先読みし、いち早く活用情報を発信してきた

私が代表を務め活動してきた団体が「漢字文献情報処理研究会(漢情研)」です。現在は代表を離れています。東洋学分野におけるコンピュータ利用の研究と紹介、および関連情報の交換を目的に1998年に設立しました。当時はWindows98が出たばかりで機能もパワーも今ひとつ。登録漢字数も東洋学分野の研究に使うにはほど遠く、そんなマシンでの漢字処理や漢籍データの扱い方など、ノウハウ紹介のために出版したのが「電脳中国学 (Ⅰ:1998年刊、Ⅱ:2001年刊)」でした。2012年に出版した「電脳中国学入門」では、Windows7環境での漢籍データの扱い方についてご紹介。この頃は既にコンピュータの存在は浸透していましたが、本が非常に好評だったため「まだ解説を必要とする人がいる」と認識しました。また、研究者の悩みに著作権関連の内容が多いことに気付いたので、法律の専門家とタイアップして「人文学と著作権問題(2014年刊)」を上梓しました。

一方、漢情研の活動報告や論文掲載の場として、またメンバー同士で現状の問題を共有できるよう、継続的に雑誌「漢字文献情報処理研究(2000年~)」も発行してきました。ここ数年のデジタル化の中で歴史的役割を終えたと考え、漢情研は現在活動を少しだけ縮小しています。

オープン・プラットフォームの理想形に向けて

漢情研では出版の他にも様々な活動を行っており、2016年度からは著作権の切れた辞典・目録類をデータ化していて近々公開できる予定です。また、有志メンバーによる「花園明朝フォント」の無償公開もご注目いただきたい活動成果です。コンピュータでデータを扱えても使用できる文字フォントがないというのは、東洋学研究者の手を煩わせる問題です。そこで、漢情研の有志がフリーに使える文字フォントを作成しました。

これまで様々な研究グループとのコラボレーションを実施してきましたが、せっかく築いた繋がり・関係がイベントや研究終了に伴い途切れてしまうことも多く経験しました。各グループで優れた研究・データ化を進めていても、グループ解散と同時にその成果が死蔵されてしまうのです。

我々研究者が目指すオープン・プラットフォームは、各研究データや成果を知るツールとして大切ですが、さらに分野全体が発展していくようなコミュニティの生成、またコミュニティの繋がりに役立つものであってほしい。今後、KU-ORCASという場で研究者同士の小さな繋がりをもっと大きな流れにしていくことが私の理想です。漢情研での経験を活かして貢献できればと考えています。