東アジアの過去・現在・未来へ KU-ORCASキックオフシンポジウム

デジタルアーカイブが開く 東アジア文化研究の新しい地平

2018年2月17日(土)・18日(日) 関西大学千里山キャンパス 以文館4階

登壇者

永崎 研宣

人文情報学研究所 主席研究員
仏教研究におけるデジタル技術の活用手法を探求しつつ、文化資料研究全般にも広く適用するべく、人文情報学という立場からデジタルアーカイブの諸課題に携わっている。非常勤講師として東京大学大学院で人文情報学やデジタルアーカイブの講義・実習を担当するなど、教育を通じた成果の反映にも取り組んでいる。

研究者による研究者のためのオープン・プラットフォームに向けて

――機械ではなく人が決めるルールの集積としてのデジタルアーカイブを通じて――

東アジア文化研究を取り巻く現状とKU-ORCASの設立目的

この度発足した「KU-ORCAS」は、私立大学研究ブランディング事業の一環として文部科学省より採択された事業です。本学の東アジア研究の源流は江戸時代の漢学塾「泊園書院」であり、この分野においては日本でトップクラスの水準を誇ります。これまでに「東西学術研究所」をはじめ、「関西大学アジア文化交流センター(CSAC)」「関西大学アジア文化研究センター(CSACⅡ)」「文化交渉学研究拠点(ICIS)」を立ち上げ、大学院「東アジア文化研究科」では文化交渉学という新しい学問領域を開拓してきました。近年の人文学研究分野ではデジタルアーカイブ化が大きな流れとなっています。デジタル化は貴重書や書画、非典籍資料など「人類の知の遺産の保存」という非常に大きな使命を帯びています。ですが、単にデジタル化するだけでは学問の発展はあり得ません。膨大な情報が行き交うことによる効能――紙ベースでは見出せなかった新たな研究方法など――を活かしてこそ、学問の発展に繋がっていくのです。そこで、KU-ORCASには3つの研究ユニットを設けています。一つめは、本学所蔵の東西言語接触に関わる、辞書や文法書を初めとする資料のアーカイブ。二つめは、東アジアの中の大阪の学統とネットワークについて。三つめは、高松塚古墳の発掘に象徴される、本学が誇る考古学のデータを元にした新しい研究の構築。これらを軸とし、東アジア研究の発展に向けて学内外から研究ユニットを公募していく予定です。

紙媒体とデジタルデータの学術情報流通における違い

人文学では、長く紙媒体を基盤に学術情報を流通させてきました。著者、出版社、印刷会社が書籍化して書店へ流通させ、図書館などで保管されるという過程です。ポイントは、出版後は情報が著者の手を離れること。以降の情報の流通は、様々なステークホルダーの働きに支えられてきました。

一方デジタルアーカイブは制作・公開がゴールではなく、公開後も常にデータが動いていきます。紙媒体の流れにデジタルでの工程を当てはめると、まず人文科学研究者が執筆、編集、印刷手前までの工程を担います。情報科学研究者やIT企業に期待されるのは印刷から流通、保管までの工程。紙媒体では出版社や図書館など多くのステークホルダーが担ってきた各役割を、数少ないステークホルダーでまかなおうとしているのです。

また、忘れてはならないのが利用者の存在です。円の中心に同分野の研究者がいて、その周りを囲むように関連分野の研究者、他分野の研究者、一般の方が層をなすイメージ。注目すべきは、デジタルアーカイブに期待する機能や用途が層ごとに違ってくる点です。そこで、より有益なオープン・プラットフォームの構築には、まず主要ターゲットを定めた上で、他のターゲット層を含めた利用者層それぞれに見合ったサービスを提供することが大切になってきます。