東アジアの過去・現在・未来へ KU-ORCASキックオフシンポジウム

デジタルアーカイブが開く 東アジア文化研究の新しい地平

2018年2月17日(土)・18日(日) 関西大学千里山キャンパス 以文館4階

登壇者

藤田 髙夫

関西大学アジア・オープン・リサーチセンター(KU-ORCAS)副センター長
関西大学 文学部 教授
専門は出土文字資料を用いた中国古代史、中国軍事制度史研究。
サブフィールドとして、東アジアにおける近代学術としての歴史学の形成史。

木簡の「表情」

――中国古代木簡に見る字体と文書の関連性――

これまで論じられることのなかった木簡の「字体」

私の研究対象は中国古代、特に漢代の行政文書の木簡です。最近、新しい試みに着手しました。それは木簡に書かれた字体の検証です。

木簡には謹直な書体で書かれたものと崩れた書体で書かれたものがあります。現状では、字体が崩れているか否か、さらには崩れ方の程度についての評価は、研究者によって異なります。つまり客観的な判断基準がないのです。また、様々な木簡を見る中で気づくのは、同じような内容でも謹直な文字と緩んだ文字があったり、同じ帳簿でも字体の崩れ方に大きく差があったりと統一性が不明なことです。木簡の内容には上役からの通達、下役からの報告、記録・帳簿類が多いのですが、例えば下部機関から上部機関への日常的な報告が非常に謹直な文字で書かれている一方で、最重要レベルであるはずの皇帝からの詔勅などがかなり緩めの字体で書かれていることもあります。これはどういうことか。まず想定されるのは、文書の内容ではなく、下書きや副本といった文書の役割の違いによるのではないか?

これらの問いを解決するため、私は「文字の崩れ具合を定量化する」という策を考えました。文字の崩れ方の程度を数値で表し、木簡の格付けや役割を探りたいと思っています。

新たなアプローチで木簡研究の次なる扉を開きたい

現在は文字の崩れ方の定量化に向け、準備を進めています。まず、最も謹直な字体(例えば石碑に刻まれた隷書)をレベル1とし、章草体と呼ばれる非常に崩れた字体をレベル5に設定。行政文書に頻出する200文字ほどをピックアップして文字画像を切り出し、データ集積しています。今後はそれらの文字にレベル値を付与する予定です。次に、一つの木簡に含まれる複数の文字レベルから平均値を算出し、文書の持つ性格を考察します。

何千件とある行政文書に適用して何が見えてくるか。まずは文書の役割特定と格付けを目指します。また、ハイレベルな文書を多く出す場所は官署レベルが高かったと推測できるので、文書行政におけるターミナルを把握できるだろうと予想します。さらに、研究者の間で活用できるデータベース――中国木簡に関するデジタル版木簡字典――を作成できると考えます。

木簡研究を革新していくデータとなるかどうかは定かではありませんが、これまで研究者各人が印象で判断してきたことに対し、共有できる基準を示すことができれば嬉しく思います。また、字体の崩れ方の判別について、現在話題のAIがどこまで対応できるかという可能性も探っていくのが楽しみです。