What's 耳鳥斎(にちょうさい)
耳鳥斎(にちょうさい)[宝暦元年1751年以前生-亨和2/3年1802/1803年没]は、江戸時代の大坂が産んだ奇矯で滑稽な戯画作者です。
一見すると、耳鳥斎は大坂という限られた地域でのみ活躍したかに思われますが、オランダ東印度会社の文様を用いた版本の袋を作っていることや、ギヤマン型の「卍盃」の印章を用いるなど、海外にも強い関心を抱く戯画作者であることから、耳鳥斎の活動には普遍的な広がりがあったと考えられます。
大正時代に大いに人気を博し、写楽とも比較された耳鳥斎ではありましたが、昭和時代に入ってからは、大阪の一部では絶大な人気があったとはいえ、徐々に忘れられ、日本美術史から除外されるという不当な評価を受けることになります。
耳鳥斎に影響を与えたという大坂毛馬出身の与謝蕪村も、やはり戯画や俳画に力を発揮して、近代漫画(マンガ)の源流のような作品を数多く描いています。もっとも、それらの戯画が近代漫画の源流であるかどうかは断定できません。
蕪村と同様に耳鳥斎もまた、一コマ漫画や、見開き四から六頁での一図の斬新な構成、また漫画の吹き出しを用いたような場面を描いており、その観点から見れば、近代漫画の原点を仄めかしており、近代漫画とまったく無関係だと断言するのも躊躇されます。
現在十点が見つかっている耳鳥斎筆《仮名手本忠臣蔵》(掛軸)の秀抜さは、一瞥すれば明らかですが、明治維新以後の流れの中で忘れられています。
耳鳥斎の世界
大石氏祇園一力康楽之圖
主題は『仮名手本忠臣蔵』の七段目にあたる「祇園一力」。
歌舞伎では通称「茶屋場」と呼ばれる場面を扱っており、大星由良之助が敵を欺くために、一力茶屋において、どんちゃん騒ぎの遊興にふけっている場面です。
画面左側には、大星由良之助が餌の代わりに小判を付けた釣竿を持ち、右手で踊る男の方向を見ているように描かれている。釣竿ということから、画面中央下に置かれている鯛と関わりがあるとも考えられるが、大星由良之助の視線や、右端に座る二人の仲居の様子からも、釣り上げられようとしているのは、獲物の魚に見立てられた踊る男だと思います。
別世界巻
本絵巻の箱書には「耳鳥斎図、別世界巻」と墨書がなされています。
巻頭題字には学問がはやり、人々が地獄を恐ろしいと思わなくなっていたので、閻魔大王が歎いている、といった内容が記されているが、いかにも耳鳥斎の面目躍如というべき語りです。画面には、二十一の当世地獄が、面白おかしく描写され、「烟草好の地獄」に始まり、「馬士の地獄」で終わっている。それぞれの地獄の解説文字のそばに、淡彩を用いた墨画による略画風の絵画が描かれています。
その他の耳鳥斎の作品
★はデジタルアーカイブでご覧いただけます
- 見立西行図
- 鼠大黒之図
- 月見猩々図
- 梅雛図
- 相撲之図
- 男二人(侍)
- 戯画巻
- 太夫禿
- 練物
- 仁王之図
- 天狗寿老鼻頭くらべ
- 忠臣蔵画巻
- 福禄寿★
- 関羽像
- 正蓮寺水燈
- 武芸之図
- 毘沙門天像
- 寿老図
- 四唾之図
- 仮名手本忠臣蔵
- 福寿図
- 桜狩人物画
- 地獄図巻
- 浪華四時詞
- 十二ヶ月図
- 顔見せ之図
- 太夫道中之図
- 世態聯画
- 台所河豚料理之図
- 歳晩
- 台所之図
動く耳鳥斎の世界
- NICHOSAI Anima Project -
畫本古鳥圖賀比 -えほんことりつかい-
文化二年の耳鳥斎没後に出版された木版刷りの版画集(上中下巻一冊)です。
本絵本には多色の色刷本と墨のみの墨摺本との二種類が遺存しているが、入手できる多くのものは明治に刊行されたもです。
今回は上巻の「祝儀」「不祝儀」をアニメーション化。
別世界巻 -べつせかいかん-
『別世界巻』は、寛政五年頃に描かれた十メートルに及ぶ絵巻です。
先述の通り画面には二十一の地獄が描かれ、その内容は滑稽と風刺に満ちた地獄絵巻となっています。
今回は「烟草好の地獄」と「歌舞伎役者の地獄」をアニメーション化。
What’s? デジタルアーカイブ
関西大学の東アジア文化研究プロジェクト「関西大学アジア・オープン・リサーチセンター[KU-ORCAS]」では、これらの資料をデジタル化し公開しています。KU-ORCASが数多くの大坂(阪)画壇の画家たちのアーカイブを公開することで、近世近代の日本美術史の研究が幅広く行われ、ひいては江戸時代から明治・大正時代に至る日本の芸術・思想・歴史の文化についての理解が深まることを願っております。